ひなげしはみんなまっ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて、息もつけないやうでした。そのひなげしのうしろの方で、やっぱり風に髪もからだも、いちめんもまれて立ちながら若いひのきが云ひました。
「おまへたちはみんなまっ赤な帆船〔ぶね〕でね、いまがあらしのとこなんだ」
「いやあだ、あたしら、そんな帆船やなんかじゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき。」ひなげしどもは、みんないっしょに云ひました。
「そして向ふに居るのはな、もうみがきたて燃えたての銅〔あかがね〕〕づくりのいきものなんだ。」
「いやあだ、お日さま、そんなあかがねなんかぢゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき。」ひなげしどもはみんないっしょに叫びます。
ところがこのときお日さまは、さっさっさっと大きな呼吸を四五へんついてるり色をした山に入ってしまひました。
風が一さうはげしくなってひのきもまるで青黒馬のしっぽのやう、ひなげしどもはみな熱病にかゝったやう てんでに何かうはごとを、南の風に云ったのですが風はてんから相手にせずどしどし向ふへかけぬけます。
ひなげしどもはそこですこうししづまりました。東には大きな立派な雲の峰が少し青ざめて四つならんで立ちました。
いちばん小さいひなげしが、ひとりでこそこそ云ひました。
「あゝつまらないつまらない、もう一生合唱手〔コーラス〕だわ。いちど女王〔スター〕にしてくれたら、あしたは死んでもいゝんだけど。」
となりの黒斑のはいった花がすぐ引きとって云ひました。「それはもちろんあたしもさうよ。だってスターにならなくたってどうせあしたは死ぬんだわ。」